CSR-企業のJusticeを求めて-

東大阪JCでCSRの講演を行います

東大阪JCでCSRの講演を行います 2013年3月18日、東大阪青年会議所の主催する3月の講演会でCSRをテーマに講演することになりました。東大阪市はCSR経営表彰事業を2012年度からスタートさせたのに続き、東大阪青年会議所もCSRを積極的に学んで持続可能な企業と社会の形成をめざした取組みを進めようとしています。講演の詳細は添付のファイルをご覧下さい。 また、青年会議所のHPにも案内があります。http://www.ejc.jp/

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J.COMPASSの研究会に参加して

 2010年12月18日、京都精華大学でJ.COMPASSの研究会がありました。J.COMPASSは中小企業のCSRの実態を調査してCSRを中小企業の新しい成長へのビジネスモデルにする研究を行っています。2009年夏に結成され今回の研究会で7回目を迎えます。
 京都精華大学は京都市左京区岩倉木野町に位置し、北には紅葉でも有名な鞍馬山を望む風光明媚な場所にある。芸術学部、デザイン学部、マンガ学部、人文学部など4学部を擁し、自由自治を学風とし、創造的な精神がキャンパスに漲っている。

J.COMPASSの研究会に参加して

京都精華大学ホームページより
http://www.kyoto-seika.ac.jp/about/index.php


 今回は、京都精華大学の服部静枝先生が「老舗企業の研究とCSR」と題して報告されました。日本の老舗といわれる長寿企業の持続的な経営努力とCSR(企業の社会的責任)が求める基準には共通点があるのではないか、日本のCSRの一つの典型として世界に発信できる内容を再評価すべきではないかなど、活発な議論が行われました。北海道や九州にいる会員はやむを得ない事情で欠席されましたが、回数を追うにつれて実りある議論と成果が生まれてきています。
 研究会終了後にキャンパス近くの京料理のお店で湯葉料理を堪能しました。湯葉は豆乳を煮沸して表面に出来た膜を掬いとったもので、元々はお寺の精進料理だったものです。タンパク質や脂肪に富んだ健康食品として、また京料理の貴重な食材として重宝されています。

J.COMPASSの研究会に参加して J.COMPASSの研究会に参加して

 食事の中では、働き盛りの世代の集まりだけあって食事と健康には関心があり、甘党派と禁欲派の間で論争もありました。人間の欲望は理性だけでは抑制できないものだなと考えさせられました。湯葉の手土産を買って師走の京都を後にしました。

J.COMPASSの研究会に参加して
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環境活動と経済活動の有機的な関連づけで
          「公正」な利益と社会的信用の獲得を

-環境経営時代に企業がとるべき経営姿勢とそのビジネスモデルとは-

環境は経済、社会、文化のキーワードに
2009年9月22日に国連気候変動首脳会合で日本の鳩山首相が英語で行ったスピーチに世界が注目している。先進国は率先して温室効果ガスの排出削減に努める、日本は中期目標として2020年までに1990年比で温室効果ガスを25%削減する、途上国に対して「共通だが差異のある」責任のもとに資金的、技術的支援を行うと述べた。これに対し、国連の潘事務総長やフランスのサルコジ大統領、アル・ゴア元米副大統領も日本の積極的な決意(国際公約)を歓迎、主要排出国である中国政府も前向きな姿勢を表明しているという。
 環境問題の国際政治で日本がリーダーシップを発揮し、目標実現に責任を果たすなら、持続可能な社会づくりに向けて世界は大きな一歩を踏み出すであろう。
 日本の経済界には民主党政権の温暖化対策に対し戸惑いや反対論もあるようだが、ローソンの新浪剛史社長は「温暖化対策に対する強い意志を感じさせ、良いと思う。世界が常に地球環境を念頭におく社会へ移行する中、日本は先手を打たなければならない。」(日本経済新聞、2009年9月18日付)と高く評価している。
 日本の環境行政が温暖化対策を柱に、今後、法的規制・社会的規制を強化する方向にシフトすることは確実であるが、それをビジネス・チャンスにして、新しい環境ビジネスを起業したり、本業の一部に組み込む動きもある。日清紡グループは、繊維事業、自動車のブレーキ製品事業、紙製品事業など複数の事業を柱とする多角化企業であるが、その中でも太陽電池製造装置の事業の収益が急拡大(この1年間に部門利益が4倍)しており、同社は、地球温暖化対策に貢献する環境とエネルギー市場へシフトすることを宣言している。
 温室効果ガスの原因となる石油製品を中心にエネルギーを供給してきた昭和シェル石油は、意外にも非石油事業である次世代型太陽電池事業に進出しており、5年後には同社の実質利益の半分を太陽電池事業で稼ぐ計画である。環境ビジネスが経済の中核となる時代を迎えている。
 環境の時代を先取りする顕著な現れとして、企業の農業への参入の動きがある。イオンは、この3年間で、全国に10数カ所の農場を運営しプライベートブランド(PB=自主企画)野菜を生産し自社の物流網に乗せて店頭販売する計画である。PB野菜の売上高を3年後に年間数十億円にしていく。セブン&アイも農家や農協との共同出資で千葉県に農業生産法人を設立しており、今後も農業生産法人を拡大する見込みである。他にも、JR東日本が農協と共同して法人を設立し駅のそば屋の食材に利用しているとか、カゴメが全国8カ所に大型菜園をもってトマトを栽培、スーパーに供給しているなど。
 これらは食の安全志向を背景に生産履歴がはっきりした商品を消費者にアピールできることと、農業の担い手不足から来る野菜などの安定供給基盤をつくる狙いもある。企業もこのような取組から健康的で安全な食料を供給するために、持続可能な農業や自然生態系のシステムを尊重した経営を考えざるを得ない。環境に配慮した農業は広い意味での環境ビジネスになる。
 最近のメディアをみると、著名な文化人も積極的に「環境」を意識したメッセージを発信している。冒険家の野口健さんは、エベレストに放置されたゴミを回収する清掃登山を提唱して登山家の意識改革に取組んでいるし、国連環境計画(UNEP)の親善大使で歌手でもある加藤登紀子さんも、「人間と自然と地球の関係から出発しないと何も変わらない」と訴えて環境保全の草の根活動を実践している。音楽家の坂本龍一さんは、自ら森林の再生、砂漠の緑化、マングローブの再生・保全事業をめざす団体「more trees」を設立し、すでに国内3カ所で森づくりを行っている。
 エコに関わる雑誌の販売が好調で環境に対する社会的関心が高まっていることや、企業や学校における環境教育も充実し体験型で実践的な教育が行われている。企業の従業員が出張授業を行うなど、産業界と教育界との交流も年々盛んになっている。
 私たちの暮らしに関わる経済、文化、社会を見渡すと、環境がキーワードとなり、あらゆる社会生活で避けられない重要な課題になっていることがわかる。

環境に配慮した活動とビジネスモデル
何のために企業は環境対策を行うのか、その結果、環境保全と収益性は両立するのか、この点を企業の経済活動の原点に立ち返って考えてみよう。
 図表1は、環境に配慮しない資本の運動のモデルである。実線部分は市場における商品の売買の過程を示し、点線部分は事業所内の運動を示す。最初に元手となる貨幣(G)で市場から生産手段(Pm;原材料、部品、エネルギー、機械や設備、工場用地など)と労働力(A)を商品(W)として購入し事業所内で適正に配置して計画的に生産(P)を行う。独創的なアイディアや技術による新規市場の創造や労働者の賃金部分の価値を超えて得られた商品価値(W’)を市場で販売して増加した貨幣(g)が得られる。このg(利益)を増大させることが資本の運動の主要な目的である。
 極端な例であるが、利益が生まれるプロセスで、環境に対していかなる影響を与えたか、それに対する自己点検と制御の基準は示されていない。この運動の規模が拡大し回転数が速まるほど収益は拡大するが、多様な生物種の生息環境が脅かされ、有害廃棄物の累積や大気、土壌、河川の汚染が進んで、環境負荷(環境への否定的影響)は加速度的に増加する。20世紀の経営学を支配した持続不可能なビジネスモデルである。
図表2は環境を配慮した資本の運動である。図表の上部をみると、資源の調達段階から製品の廃棄段階後のリサイクルを前提にした設計やそのための素材を選択していることがわかる。製造段階でも省エネルギー、ゼロエミッション(廃棄物をゼロに近づける取組)を行って、本業でも環境配慮型製品やサービスの比率を高めている。また、流通段階や廃棄段階でも省資源化や分別、回収、再利用・再生利用を図って、製品のライフサイクルにわたる環境負荷削減の取組が行われている。
 この図表の下部に示されている資本の運動の図解は図表1に似ているように思われるが、G’にリサイクル活動による利益が加わっている。xは廃棄・回収・リサイクルによる一部費用負担と原材料節約による費用削減を相殺し付加された利益である。このxは当初は赤字であるが、回収率が上がり環境配慮製品に組み込まれる原材料節約の割合が上昇するにつれて次第に黒字に転化する。また、自社だけでなく他の事業所からの廃棄物を回収する独自のリサイクル事業もxの黒字化に貢献するであろう。
 リコーの2007年度の環境経営報告書によれば、年間あたりの環境投資額は約6億円、環境費用は約180億円であった。環境コスト総額(年間)は186億円である。他方、環境活動による経済効果(リサイクル品売却額、特許などの研究開発効果、汚染によるリスクの回避など)は約395億円である。この差額は約209億円で大幅な黒字となっている。なかでもリサイクル品売却額は240億円に達し、経済効果の約61%を占める(『リコー環境経営報告書2008』2008年、60頁)。この財務データは、リコーが日本でまだ「環境経営」という用語が浸透していなかった時期(2000年)に、逸早く環境経営の到来を予見し、将来の環境リーダーになることを宣言して先行投資した成果であることを物語っている。
 図表1の利益は環境を犠牲にした利益であるが、図表2の利益は環境に配慮して得られた利益である。図表1よりも利益の環境公正性が明確になっている。企業は環境活動と経済活動を有機的に関連づけて計画的、組織的に取組めば、「公正」な利益を達成できるだけでなく、その後の環境格付や環境融資でも競争優位に立ち、環境ブランドを形成して株価の上昇や社会的信用を高めることも可能になる。

優れた環境経営を取組むために
 持続可能な社会に向けた環境経営の成功の条件は以下の5つの点に要約できる。 第1に、経営ビジョンでフロンティアに立って、環境配慮の事業(本業)を中核に据え、独創的なビジネスを開拓することである。環境や人を第一義に考えた事業を展開することが大切である。
 愛媛県今治市にある池内タオルは、従業員数27名からなる中小企業だが、本業のタオル製品を枯れ葉剤を使用しないオーガニックタオル(有機栽培綿で製造されたタオル)に転換してニューヨークの国際博覧会に出品して受賞、製造プロセスで使用する全エネルギーを風力発電に置換える手法(グリ?ン電力証書の取得)等を採用して事業を成功に導いている。
 また、日本理化学は従業員数で100名に満たないが、知的障害者を50%以上採用して、地域の雇用に責任を果たしており、養殖のホタテ貝の廃棄物である貝殻を粉末にして炭酸カルシウムと混ぜ合わせリサイクル製品(ダストレスチョークという)にする技術を確立している。
 損保ジャパングループは金融機関の社会的責任投資(SRI)の中心的な投資信託商品である「ぶなの森」を1999年に設定したが、世界的な金融不安と株価低迷の中でベンチマークとしているTOPIXを13.4%上回る経済パフォーマンスを示している。この点が評価されてSRIファンド大賞を3年連続獲得している。SRI商品が中核にはなりきれていないが、日本の金融機関の中で環境先進企業とみなされ、環境省から「エコファースト」の認定も受けている。
  第2に、環境配慮型利益をどのように実現すべきか、その方法を模索することである。調達段階から廃棄段階に至る個々のプロセスの活動も重要であるが、当事業が製品のライフサイクルにおいて重要な環境負荷を与えている領域を明らかにし、その解決法の中に新しいビジネス分野を探求し、発見する。事業所で使用される化石エネルギーに替わる新エネルギー技術の開発や導入、CO2排出削減のノウハウの開発、環境配慮型材料(eco material)の開発は自社にとって当面の費用負担になるが将来の有力な知的財産(技術革新)への先行投資とみなし公正な利益への手段と位置づける。
 ガラスや化学製品を供給するAGCは、優れた断熱性をもつエコガラス(複層ガラス)の開発によって、建物や自動車の省エネルギー性能を高めCO2削減に貢献するガラス技術をコア事業に位置づけ新しい収益源のコア技術として研究開発を強めている。
 第3に、市場に提供する製品系列で環境配慮製品(省エネルギーでリサイクル可能な材料からなりエコマークなど第三者認証を得た製品)の割合を100%に近づけることである。本業における環境配慮製品の拡大は環境ブランド(環境に関する情報、コミュニケーション、イメージ、活動評価で得られる消費者や企業関係者の信頼度)を引き上げる。
 第4に、最高経営責任者の直属組織に、環境活動の計画立案と実行に責任をもつ役員を配置し、環境計画と経営計画の調整を行い、環境配慮型指標を経営指標に優先してウェイトづけしコントロールすることである。
 第5に、個別企業の環境対策の意義と限界を認識し、マクロなレベルからの行政指導や社会的規制を尊重して協力する。法的規制を忌避せず、社会的規制の強化が新しい技術開発への契機となる可能性に挑戦すべきであろう。また、同業者やライバルとの技術協力など横断的な連携を図っていくことも賢明な選択であろう。
 先日、経営史学会の全国大会が京都で開催され、その最終日に「伝統と革新?京都企業からのメッセージ」と題するパネルディスカッションが行われた。京都で会社を創業して100年を超える(株)島津製作所、(株)尾池工業、(株)イシダの社長が何代にもわたる会社の発展と苦難の歴史を回顧し、なぜ100年以上も会社を維持できたのか、その成長の要因と今後の展望を説明された。なかでも、(株)イシダの石田隆一社長(4代目)は、奢らず、油断せず、「皇寿(111歳)になっても若さを保つ企業」「ピンチに際し逃げずに挑戦する」企業を目指すと締めくくられた。優れた伝統とは革新の蓄積である。環境経営をこれから進めようとする企業、環境経営のさらなる高みに挑もうとする企業に石田社長の珠玉の言葉を贈りたい。

(出所)
 日本経営協会編集部『オムニ・マネジメント』2009年11月号掲載より

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CSR経営のすすめ

2007年10月に東大阪商工会議所主催の研究会「トップス東大阪例会」で招待され「CSR経営のすすめ」と題して講演したときのスライドをPDF形式にしたものです。
CSRの本来の目的や具体的な実例をビジュアルに解説して、今後の新しいビジネスモデルとなる可能性をもつ手法であることを論じています。大企業に留まらず中小企業経営者もできるところから意欲的に取り組む意義を強調して結論としています。

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経営学の羅針盤?CSR経営への道程?

1.経営を混沌に擱かず
2002年の夏休みに、10名程のゼミ生を引率して京都府福知山市内の中堅企業数社を訪問し、リーダーシップ(指導力)とは何かをテーマに会社社長にインタビューしたことがある。ある医薬品会社の社長は、私たちが訪問するのを心待ちにされ、その日のために自ら作成・準備されたパワーポイントで、同社の事業の特徴や組織、今後の経営への抱負などを理路整然と説明された。医薬品事業に対する専門的知識に留まらず、経営者としての心構え,将来への投資の計画や従業員の動機づけの極意など、月並みな講演会では聴けない洗練された経営哲学を圧倒的な気迫で話された。

この医薬品会社の社長は、リーダーシップの本質を『経営を混沌に擱かず』という簡潔な言葉で表わした。つまり、会社を代表する指導者(リーダー)は、会社を巡る様々な環境(政治、経済、法律、文化、自然環境など)の動向を分析しその内容を正確に読み取って、会社の進むべき進路を定める責任をもっている、という意味である。もしこの分析や方針が誤れば,会社は目標を見失い、事業を失敗に導いたり会社存続の危機を招くであろう。

会社のリーダーは誰よりも会社の進むべき正しい方向を示す羅針盤をもたなければならない。オーケストラでいえば、社長は指揮者であり、様々な楽器(従業員)から奏でられる音を指揮者がイメージした曲想の下に芸術的に意味ある音色に紡いでいく。会社の将来のあるべき姿(ビジョン)を設計し、その実現の方策(戦略)を練り上げる工程は、現実の製品を製造したり商品として販売する実務とは異なり、目に見えない。目に見えないが会社のリーダーの大切な役割とみなされている。
2.CSRの登場
21世紀に入って現代の会社のリーダーの前に、20世紀の経営学が見落としてきた大きな 壁が現れた。CSR(Corporate Social Responsibi-lity;企業の社会的責任)という巨大な壁である。CSRの理解と扱い方を誤れば、会社経営を「混沌」とした荒海に投げ出し、延いては「反社会的企業」の烙印をも押されかねない。

最近生じた日本企業による国内の反社会的事例をいくつかあげておこう。

  • 建設業者や経営コンサルタント、1級建築士が共謀してマンションやホテルの構造計算書のデータを改ざんし耐震強度を偽装、安全性より利益を優先して危険な建物を販売した耐震偽装事件。
  • 自分の会社の価値を大きく見せるために、複数の会社が合体して一つになる合併(Merger)や相手企業の株式の過半数を取得して実質的に支配下におく買収(Acquisition以上の行動をM&Aと呼ぶ)を繰り返し、投資家を欺くための虚偽の情報を提供したり、粉飾決算(会社の業績を良くみせるために経理内容に不正な操作を加え虚偽の決算書を作成すること)を行って証券取引法違反の容疑で社長が逮捕された事件。
  • 公共下水道工事に絡んで県知事が建設業者と談合しその見返りに受注先の業者から選挙資金を受け取った福島県下水道談合事件。
  • 1972年に世界保険機構(WHO)が石綿(アスベスト)の発がん性を指摘していたにも関わらず、行政による石綿の全面使用禁止措置が等閑にされた事情も加わって、石綿を取扱う工場労働者や周辺住民に中皮種が広がり多数の死亡者を出して健康被害の広がりが懸念されているアスベスト公害。
  • RVワゴン車の舵取り装置の部品(リレーロッド)の強度不足を知りながらリコール(事故を未然に防止するうえで保安基準に適合していない製品や部品を国土交通省に届け出て回収し無料で修理する制度)の届けを8年間怠ったために人身事故で5名が負傷し、業務上過失傷害容疑で品質保証部長ら3名が書類送検された事件。


上記の企業不祥事は氷山の一角であり枚挙に暇がない。これらの事件を招いた原因には一つの共通点がある。安全や衛生、人権、法律を軽んじたり無視して営利を優先した結果であるということである。

だが、アスベスト公害を除けば上述の事例には原因と結果が比較的明確であり被害者の特定や反社会的影響の範囲も限定されている。
温室効果ガスの大量排出による温暖化の加速化、大気中または海中に廃棄された有害化学物質による汚染、人間の経済活動や生活圏の拡大などによる種の絶滅の進行、資源・エネルギーの枯渇の危機、森林伐採による原生林の消失、砂漠化の進行、など地球環境問題の影響は国境を越えて長期に及ぶ。また、その責任を特定の企業や個人に収斂することは困難である。
不要になり捨てられて海面に漂うビニール袋を餌のクラゲと間違えて飲み込んだために消化不良を起こし海浜に漂着したアカウミガメの死の責任を特定の企業や個人に結びつけることができようか。

企業や個人の利己的な活動の集約が地球環境問題として現れた。したがって、その解決のためには、環境改善や生態系の維持のために何が必要かを予め考えて取り組み、その成果として利益が生まれ正当に評価されるシステムが必要になる。地球環境問題の解決には、生産者も消費者も国境を超えて共同しこれまでの生産活動や生活様式、価値観を転換して環境へのダメージ(否定的影響)を少なくする取組を図らなければならない。

環境に配慮した企業の活動は、1990年代に環境マネジメントとして誕生し、省エネルギーや廃棄物の削減・リサイクル、化学物質管理などの領域で短期間に一定の実績を挙げてきた。
会社が社会に供給する製品やサービスに関し法令以上の厳しい基準を課して遵守し適正な収益を達成している経済情報、工場や事業所、製品から発生する環境へのダメージを計画的に削減する目標と実績を中心とする環境情報、雇用保障や障害者差別・性差別解消、従業員の労働安全衛生、地域社会への貢献の実績などに関する社会情報を柱とする3分野の情報(TBL;Tri ple Bottom Line,トリプルボトムラインと呼ぶ)を公開して、会社の事業を社会的責任(SR; Social Responsibility)の遂行状況から価値判断する運動が広がってきた。

SRは、現在、ISO(International Organization for Sandardization ;国際標準化機構)で規格化に向けた作業が行われ、2008年頃を目処にISO26000として発効する予定である。SRは営利を追求する企業だけでなく、自治体や政府機関、学校、病院など幅広い組織に適用される。CSRはSRの一部として包括されその企業版とみなされている。
SRに関する情報を基に企業を格付(社会的責任の遂行状況の優劣に関するランキング)し、投資家の判断材料にしてSR評価の高い企業を金融的にも優遇しようとする動き(SRI;Social- ly Responsible Investment社会的責任投資と呼ばれている)が欧米を中心に拡大している。

20世紀の経営学が信奉してきた収益本位の成長や競争優位の経営原理が根底から問い直されている。
3.新しい経営学の創造をめざして
経済的側面、環境的側面、社会的側面の3つの領域から社会的責任をはたそうとする取組をSRビジネスと呼ぶことにしよう。

江戸時代の自然哲学者で豊後国(現在の大分県国東市)の出身であった三浦梅園(1723?1789年)は医者でありながら当時の西洋天文学や朱子学を極め独自の世界観を確立していた。彼はその著書で、自然事象や社会事象を見る際に、主観的な立場から見ただけでは本質を見誤る、逆の立場からも事象を観察して総合すると本当の姿が見えると述べた。これを「反観合一」と称している。ドイツ人哲学者ヘーゲル(1770?1831年)が確立した弁証法に通じる概念を鎖国時代の日本人が発見していた。余談になるが三浦梅園の生家にはノーベル賞受賞者である湯川秀樹の直筆による色紙が飾られ「反観合一」と記されている。

CSRとは、企業が「反観合一」を実践する運動と言える。利益を生み出すプロセスで自然環境や生態系にダメージを与えていないか、消費者や株主、地域住民との摩擦を解消し社会に貢献したかどうかなど自社の活動をNPOや消費者団体、労働組合などにも評価してもらい、その情報を公開して会社の成長の公正性を客観的に判断してもらう。

このような自己点検、相互点検が可能になり、行政によるフェアな規制を背景に大きなシステムとして定着すれば,経営者による独善的な収益本位の経営は淘汰され、企業不祥事や公害、生態系へのダメージ、社会的不平等の多くの問題も解消に向かうであろう。

SRビジネスの先進的事例を紹介しよう。

  • 環境NPOであるグリーンピースが開発したノンフロン冷蔵庫(炭化水素を冷媒に使用しオゾン層破壊物質であるフロンを使用しない冷蔵庫)の技術協力を受けて日本国内で初めてノンフロン冷蔵庫を開発、販売した家電メーカー。
  • 工場の設計段階で省エネルギーを企図し産業廃棄物を発酵させたガスを燃やして発電し発生した熱を利用するエネルギーシステムを確立して、1990年比で約45%の温室効果ガスの削減に成功し日本の京都議定書目標(-6%)を超過達成しているビールメーカー。
  • 国内で05年度に4038件のボランティア活動に従事し、金額換算にして約5億円、総社員参加時間数は6万2140時間の実績を集約、公表している電子機器メーカー。
  • 能力と意欲ある女性の活躍の機会を創りだすために「女性活躍推進委員会」を設置し、新卒採用や職務領域での女性の拡充、女性の管理職登用、育児休業制度などで目標と実績を公開している地方銀行。
  • 本社とグループ会社の新入社員1万人を対象にしたCSR研修の中で車椅子やアイマスクを使って疑似体験させ障害者の立場に立った生活を実感させる取組を始めた損害保険会社など。

まだ端緒的な成果に過ぎないが、SRビジネスを成功に導くことができれば、持続不可能な社会から持続可能な社会への転換が可能になる。そのための新しい経営学の原理と手法の開発が求められている。持続可能な社会のキーワードであるCSRは21世紀経営学の希望を灯す羅針盤になるであろう。

(出所)
 拙稿「経営学の羅針盤?CSR経営への道程?」近畿大学
 経営学部編『知識の狩人?学問の世界・学びへの誘い?』2007年版。