No.015 習気(じっけ)を払う~福島第一原発事故の教訓~

1 結果責任をとらない国

 2011年3月に発生した東日本大地震と津波の直撃を受けた福島第一原発の事故は、旧ソ連のチェルノブイリ事故(1986年)のように直接の死者こそ出さなかったものの、今後何世代にも及ぶ未曾有の環境災害(放射能汚染)をもたらす。汚染された水や食物、呼吸を通じて体内に取り込まれた放射性物質による内部被曝の健康への影響(癌や白血病患者の増加)は10年後を目処に若い世代を中心に顕在化するだろう。内部被曝の脅威がボディーブローのように日本の国土と社会を襲う。日本政府には長期的な内部被曝についての十分な対策と用意はない。史上最悪と言われたチェルノブイリの汚染地区では、20数年を経過して放射能の影響から先天的に異常のある子供が生まれ、足が8本ある馬や4つの角を持つ牛など奇形の動物も生まれている。チェルノブイリの子供の罹病率は事故後10年で2.1倍,発病率は2.5倍に増加している。内部被曝の脅威に晒される日本も例外ではない。2012年 2 月7日の日本各地の放射線量は多くの地域で上昇、とくに愛知県では昨年3月14日以降最大値を更新したという。チェルノブイリ事故後の罹病率等の詳細は写真家Paul Fuscoのサイトを参照されたい。

http://pop-rin.seesaa.net/article/202884041.html

 「原子力は安全」「原子力は安い」という政府と電力会社のキャンペーンは原子力エネルギーの危険性を隠蔽するための虚構であった。日本人が政府を信用できず疑惑の目で見るのは、歴史上、第二次世界大戦の敗戦時に似ている。日本を盟主とする「大東亜共栄圏」(日本帝国主義)の野心的な構想が崩れそれまでの軍部による戦争「勝利」報道や「神州不滅」の国策が嘘であったことを国民は思い知らされた。信じるものが無くなった日本を統治した米国は、天皇から絶対権力を剥奪し「象徴」に祭り上げたうえで、日本を米国の利害を守るアジアの最前線基地に改造した。米ソ冷戦体制の基で日本と軍事同盟(安保条約)を結び86箇所もの米軍基地(2009年時点)を現在も保持している。核兵器の原理を民間に応用した「原子力の平和利用」が米国の政治的影響力を拡大する目的で推進された。原子力エネルギーの発電への転用が副産物としての放射性廃棄物を大量に生み出し、その安全な処理技術もないままに、日本政府は米国(正確にはCIAの作成したシナリオ)の意のままに無批判に原発を推進した。この安直な原発政策を推進してきた歴代の政権の責任を誰がとるのか。 


 日本の国会で初めて原子力予算(1954年)を立案し可決させた張本人である中曽根康弘元首相は、過日のNHKのインタビュー(2011年 9月 15日、ニュースウォッチ9)で、「想定外という言葉自体が間違った考え方」とうそぶき、「原発をいかに改良して害のない方向に前進させていくかが政治の大きな仕事」と原発推進を堅持する意向を示した。福島第1原発の原子力技術が米国の意向の下で、大地震などの事故対策を無視して全国に54基もの原発を設置させてきた責任感など微塵も無い傲岸不遜の態度を示した。人間として正常な感覚を持つ政治家であれば、「このような危険なエネルギーを導入する下地を作った責任を政治家として痛感しており、日夜被曝の危険に晒されている住民の皆様にこころからお詫びしたい」という謝罪の言葉が最初にあるべきではないか。

 日本の原子力行政の基礎を作り推進してきた保守政治家のトップ(長老)が結果責任をとらずに居直っており同じ政党内からも批判を受けていない事実からも歴代政権を担当してきた政党の自浄能力は今後も期待できない。情報を隠したり操作して国民が主体的に考える力をもたせないように政権を維持する政策を愚民政策または衆愚政治という。国民を愚民視する政治家に安直に政治を委ねるシステム(お任せした人間に政治を委ねる社会)では無責任な統治者を輩出する負のスパイラルから抜け出すことは出来ない。



2 習気(じっけ)を払う

 三浦梅園(本名は晋、すすむという、1723〜 1789年)は江戸時代中期の哲学者である。大分県の国東半島の杵築(きつき)藩の安岐(あき)という町で医者を生業としていた。全生涯を独創的で体系的な哲学体系の構築に傾注して、ヘーゲル以前に近代的な唯物弁証法を発見、確立したといわれる。生涯、「玄語」「贅語」「敢語」の3部作を作成しているが、37年を費やした玄語は完成できなかった。日本が生み出した最大の哲学者であったが、自分の学問大系を生前に公表せず、家族にも門外不出にするように配慮していた。梅園の思想が封建体制を支えた思想を否定するものとみなされ家族に災いがもたらされることを恐れたためであろう。

右は梅園邸に掲げられていた梅園の肖像画、左はノーベル賞受賞者である湯川秀樹博士が記した書
出所)http://www.coara.or.jp/~baika/suzuri.html

 梅園は「反観合一」(はんかんごういつ)という言葉を用いて真実を知る方法を説いた。原子力エネルギーが持続可能なエネルギーかどうかを判断するときに、推進論者は同エネルギーのメリットだけを説くが、反対論者はそのデメリットを強調する。両社は対立しているようにも見えるが、物事の一面を誇張したり肝心な側面を見落としがちである。真実は両社の主張とその情報源を統一(合一)すれば本当のことが見えてくるというものである。これを反観合一と称した。 
 正確な判断の前提として、天地(自然)を師とし固定観念や派閥への配慮や雑念(人間の利害関係や主観)を排除する必要があると梅園は説く。この誤った固定観念や邪心を梅園は習気(じっけ)と呼びそれを払拭(ふっしょく)することを科学者の心構えとした。真実を見極めるためには批判的にものごとを見てすべてを疑えと言っている。
 歴代政権の中でも米国のレーガン大統領と「ロン・ヤス」関係を築き得意の英語力で親米ぶりを強調した中曽根元首相に対し、原子力行政に関わった当事者の心境を聞き出すNHKのインタビュー(先に紹介したニュースウォッチ9)は、「威風堂々、言葉に力がある」「国家の二文字を背負った政治家」と大越健介キャスターが最大限に中曽根氏を持ち上げ、「習気」に捕われた不見識な報道番組であることを露呈した。ジャーナリストとしての批判的、科学的精神を喪失した当番組に対する批判には厳しいものがある。

http://www.nhk.or.jp/nw9-okoshi-blog/cat6311/97523.html
(ニュースウォッチ9でその日のインタビューの全文が掲載されている)

http://toyugenki2.blog107.fc2.com/blog-entry-2254.html
(NHKの不見識という見識)

http://auroro.exblog.jp/13618169/
(いくらなんでもひどすぎるNHK『ニュースウオッチ9』)

 原子力エネルギーの安全性について正確な知識を持とうとしなかった国民の側にも大きな責任はある。無能な政治家を選出してきた日本人に見識がなかったということだ。習気に毒されない健全な批判的精神に満ちた国づくりを進めることが日本の再生に繋がると確信している。

2012年02月09日 09:24