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現代中国事情

 2010年8月7日から14日まで1週間中国を旅行した。旅行と言っても家内の実家の田舎に4日間滞在して、後の3日間は上海に宿泊し滞在しただけの簡単な旅程である。中国人の生活水準の向上と経済発展には目覚ましいものがあるが、中国の経済発展の裏事情と都市部の温暖化の状況について、最近体験したことを記しておきたい。

<上海は灼熱の都市>
 関西空港から出発して約2時間後、上海空港に降り立ってまず驚かされるのは、街全体がサウナかと思われる茹だるような気象である。出迎えてくれた知人の乗用車の温度計(熱センサー)でも外気温は41℃ 。これが最近の上海の気温で、中国政府機関が公表する気温は正確ではないという。
 万博の開催中に観光客の出足が鈍る懸念があることや、中国の法律では気温が37℃を超えると休業しなければならないという特殊な事情もあるだろう。そのため、中国政府は40℃とは言えずに、37℃近いレベルで公表している。休業と言っても一部の日系企業を除けば法律を守っている企業は殆どないのだが。この国では、気温の公表も政治絡みである。
 万博については、国内外で評判は芳しくない。当初、7500万人の参加者を政府は当て込んでいたが、実績は下回る見通しで、目標に近づけるように年内一杯まで開催期間を延期するそうだ。これほど暑い万博は史上初めてに違いない。筆者は行列と人混みと暑さが苦手なため、1970年に大阪の吹田で開催された万博も見ていないし見たいとも思わなかった。夏の上海万博で炎天下に行列する観光客は命がけであろう。昨年までの上海は夕方になると浜風が吹いて涼しく過ごしやすかったが、今年は期待できないようだ。
 上海の道路は見違えるほどに近代化され、夜になると派手なイルミネーションで街全体が不夜城のごとく活性化している。行き交う大量の自動車と人混みで上海全体が熱気に包まれ、経済成長を謳歌している。万博を迎えるための国を挙げたマナーアップキャンペーンの効果もあり、車の進路変更の際には、運転手はウィンカを出すようになっておりマナーは多少改善されてきている。地下鉄も安くて便利だ。上海で移動するときは交通渋滞に巻き込まれるバスやタクシーより地下鉄が安全であり経済的で早い。因に、同じ距離を走ったときのタクシー代40元(約520円)、地下鉄は一人4元(約52円)である。
 道路事情では大きな変化がある。かつては市民の中心的な乗り物であった自転車が殆ど見られず、自動車とバイクに取って代わられている。勢い、自動車から排出されるガスや排熱の増加も上海の外気温の上昇を加速しているだろう。現地の中国人によればこの暑さでは流石に自転車を漕げないという。タイヤが路面の暑さで溶けるのではないか?笑うに笑えない話である。


地方の街の交差点(信号がない!)

過剰な積載風景

 3年前、江蘇省の南京市を訪れた折、生まれて初めて熱中症を経験した。夜の南京の街で観光客のにぎやかな露店をウォッチングしていると、汗が出なくなり体内に熱がこもって力が抜けその場で動けなくなった。夜間とはいえ外気温は38℃近かったと思う。急ぎ、近くの店でペットボトルの水を買って頭から冷水をかけ飲料水を補給して難を凌いだことがある。片や中国人は平気で歩いていたので、失礼ながら日本人に較べて中国人は暑さに強い民族かも知れない。南京は孫文の墓(中山陵)など史跡も多く文化の香り高い街であるが、武漢、重慶と並んで中国でも3大火炉(ストーブ)といわれるほど、夏の暑さは格別である。

<中国人の識字率と食の危機>
 世界の国々の識字率(文字を読んだり書ける人の比率)を見ると日本の識字率が98%に対して中国の識字率は91%である。現代中国の都市人口は約6億人、農村人口は約7億人である。近代化が遅れた農村住民の高齢者の非識字率は高い。農村住民は農業のみでは生計が維持できないので、若者を中心に都市部へ出稼ぎに来ている。残された農村の子弟のための学校教育に要する費用は年々増加しており、その費用が払えずに学校へ通えない子供の割合が増えているという。
 2005年現在、中国の非識字率の人口は約1億人と言われ増加傾向にある。この非識字者の多くが農村に集中している。2005年の世界全体の非識字人口に占める中国の割合は15%で、インドに次いで2番目に高い。
 中国政府は国内農業よりも大都市の工業の育成強化に重点を置いていることから、中国人に食料を供給する農業の基盤が経済的にも教育的にも急速に弱体化している。中国政府は土地に対する私的所有を認めていないので、共産党政府が地域全体の都市開発推進を決定すると、先祖伝来の愛着ある土地であっても、農民は簡単に土地を手放し、区画化された住宅用マンションや戸建住宅などに移住させられる。民主主義がないので、トップの決定に異議を挟む者は殆どない。このトップダウンの開発政策が農業の継承性や生産力の増大の足枷になっている。土地に対する愛着心が希薄であることや非識字率の高さも手伝って、持続的な農業につながる有機農法が敬遠され、手っ取り早く害虫を駆除する農薬を大量使用する農業が蔓延っている。それが中国の水と食料の質を危機に追いこんでいる。


元留学生の教え子たちとの再会(上海)

 中国では、小麦、米とともに輸出してきたトウモロコシが昨年の旱魃の影響を受け、2010年、初めて輸入超過に転じた。これは一時的な現象ではなく、2010年までに累積130万トン輸入しているが、2011年は年間450万トン、2012年は年間1500万トンまで輸入量が拡大する。世界最大のトウモロコシ輸入国である日本(年1600万トン)に迫る。中国が主に輸入するのはアメリカである。(日本経済新聞、2010年8月20日)トウモロコシだけでない。家禽類向けの飼料ともなる大豆(遺伝組み替え食品)でも1990年代後半から中国は輸入国になっている。アメリカの穀物メジャーに重要な食料の供給を委ねている中国の食糧事情は見せかけの経済成長とは逆に食料面で危機的な状況を迎えるであろう。
 飢餓の世紀の到来を早い時期に警告してきたワールドウォッチ研究所の13年前の観測は的を射たと言える。「穀物の需要が供給を上回る中で、輸入国はかつてない不安定な状態に置かれている。なぜなら、これらの国は、その輸入の半分近くを一つの供給者—米国—に頼っているからである。…これは本来的にリスクの大きい状況といえる。なぜなら、米国の穀物生産は主として天水(雨水)に頼っているため毎年大きく変動し、旱魃や熱波の影響をきわめて受けやすいからである。」(レスター・ブラウン編著『ワールドウォッチ研究所地球白書1998−99』ダイヤモンド社、1998年、165—166頁)
 これまで、7、8回中国を訪問したが、今夏初めて中国の水が合わず体調不良になった。炎天下の中国の街を歩くときに熱中症防止のために市販のペットボトルの水がどうしても必要になる。この水の安全性が怪しい。世界銀行の報告では、都市の90%の地下水、河川、湖沼の水の75%が汚染されており、水質汚濁の広がりのため、毎日7億人が汚染された飲料水を飲んでいるという。
 UNICEFが中国の11の省を調査したところ、その内の半分以上で飲料水のサンプルが許容範囲を超える高濃度のバクテリアによって汚染されていることが分かった。とくに、工場地帯の近辺や農村部の地下水を採取している飲料水は高濃度のヒ素を含んでいる危険性が高いので要注意である。水が危ういということは、すべての食品の安全性に影響する。


果物は安いが安全か?(上海の露店)

露店で売られている鶏。衛生状態は悪い。

 旧暦の8月15日(2010年は9月22日)、中秋の名月を家族で愛でながら月餅を食べるのが中国の麗しき伝統で、海外への土産物としても月餅は人気が高かったが、近年、海外への輸出が出来なくなっている。理由は、月餅の餡(あん)に含まれる卵黄や肉、ナッツ、ドライフルーツなどに基準以上の甘味料、漂白剤、防腐剤、カビ毒素が含まれていたためだ。中国の月餅は美味で中国の食文化を象徴する菓子であるが、安全性への信頼回復には暫く時間がかかるだろう。
 帰国するまでの3日間、下痢症状で苦しんだが、日本に帰国した日、JR大阪駅の居酒屋風の飲食店で偶々食事をし、一杯の冷水を飲んで体調は回復に向かった。日本の水が美味しくて安全であることをこのときほど嬉しく誇りに思ったことはない。

 <中国の盗用文化と伝統工芸> 
 上海万博では、他人のアイディアを平気で盗用する中国のパクリの文化が注目された。万博ソングに日本人シンガーソングライターの岡本真夜の曲を盗用したとか、マスコット人形の海宝がアメリカの人気アニメのガンビー(Gumby)の模倣ではないかとか、中国の国家パビリオンの建物が日本人建築家、安藤忠雄の過去の作品に酷似しているとの疑惑が噴出している。真偽の程はともかく、
中国には他人の技術やアイディアの模倣を大して罪悪視しない文化が根付いていることは間違いない。


上海万博のマスコット海宝

アメリカのアニメ、ガンビー

 下の写真をご覧あれ。どちらが本物の海宝(万博のマスコット)か、わかりますか?正解は右側です。たしかに、比較すれば、左側の色がわずかに色褪せているし白目の部分も生地が粗いことがわかります。しかし、単独で本物かと問われれば、全くわからないほどの精巧な出来映えです。模倣とはいえ、この徹底した盗作技術には感心します。海外の作品であれ、国内の作品であれ、儲けるためには官憲の規制があろうとバレない限り何でもコピーする、大したものです。上海の地下鉄の地上の入口で、興味本位で定価の半分以下の値段で購入しました。


上海の地下鉄入口で売られていた偽マスコット(左)

 近年、他人のアイディアを盗用したり模倣する行為を恥ずかしいと感じる中国人も次第に多くなっている。中国が先進国のアイディアを平然と盗用する国にこれからも甘んじているかというとそうは思わない。発展途上国から先進国へ進むための一つの通過点ではないかと思う。5年前、上海の露天商から購入した中国の大衆的な伝統工芸品を紹介しよう。中国の都市では非合法の露天商が夜の街で様々な雑貨品や衣類、果物などを売っている。その中で、眼に留まった第1級の工芸品を見つけた。龍の棕櫚(しゅろ)編み細工である。これが日本円で約500円であった。外国人向けにはその3倍くらいの値段で売っていると聞いた。棕櫚の葉一枚を原料に龍の立ち姿を表現したものである。1日費やして1個しかできないという。きちんと左足1本で立っており、蛇の鱗に似た文様の出し方や鬚が勢い良く天空へ伸びた線、空中を掴むかのような力強い4本の足、雷鳴を轟かして踊り狂うようなデザインは見事である。中国の大衆的な伝統工芸の極みであり、その独創的なデザインといい、鬼気迫る迫力、正に匠の世界といえる。棕櫚編み細工の工芸品は日本にもあるようだが、インターネットで見た類いの作品は、この竜の足元にも及ばない。
 万博開催時期にも当たり、このような非合法の露天商はその影も見当たらなくなった。残念なことである。日本でも普通に見られるデパートやブティックでの既成の商品にステージを奪われてしまった。中国の山奥から出稼ぎに来てこの工芸品を売っていたあの職人は、今、どうしているのだろう。商売のノウハウを身につけて起業しているだろうか。龍のごとく人生を飛翔していればと願わずにいられない。      


龍の棕櫚編み細工(前)

龍の棕櫚編み細工(横)

龍の棕櫚編み細工(後)

<中国、上海の生活と物価> 
 家内の郷里にあたる江蘇省の河口で面白い漁を経験した。これは日本にはない珍しい魚捕りである。およそ川幅500メートル程の川底に編みを仕掛けてあり、その網の4角にはワイヤーが巨大な支柱に固定されている。定期的に起重機でこのワイヤーを巻き上げると川底に沈められていた網が浮上し、その底に追い込まれた魚が逃げ場を失って網にかかっている。1艘の船に乗った漁師がこれらの魚を掬い上げ、同乗した客に手渡して料金をとるという商売である。頻繁に漁船が行き来しており、その往来を邪魔しないように作業をしなければならない。網を底に沈めて引き上げる間隔はおよそ20分程度。そして網にかかった魚を捕るのに20分、占めて40分、1サイクルで漁業が行われている。


川底に沈められた網

ロープで網を巻き上げる機械

引き上げられた網の中で魚を捕る

捕獲された魚

 最近は大連の港湾施設で爆発があり大量の化学物質が流出して海が汚染されたという情報や養殖魚に大量の有害な化学物質が使用されているという情報も伝えられており、魚を好む中国人も安全な食品には敏感になっている。この川でとれる魚は養殖ではなく野生の魚なので人気があるという。この日も近隣の住民がたくさん集まって順番待ちをしていた。上海万博が国際性を謡っている事情から今年の中国のテレビや新聞は反日の傾向は少なくなっているので、日本人に対する感情は昨年に較べてもずいぶん良くなっている。
 上海で万博を実施中ということで、郊外からの上海への車の乗り入れに警察は厳しい規制を行っている。高速道路のすべての車両をインターチェンジで立入検査し、身分証明証などをチェックしている。後日談だが、地方都市のあるバスの中で乗客の持ち物に爆弾入りの鞄が持ち込まれていたことが主な理由のようだ。結局、鞄や持ち物検査は簡単に済ませてパスポートのチェックなどで40分程足止めを食った。
 その後、オートロック式のシティーホテルに宿泊した。ダブルベッドの広々とした部屋で1泊約9,000円である。水洗やシャワー施設(風呂はない)はモダンでシーツも清潔であるが物価水準は急速に日本に近づいている。このホテルは地下鉄の駅から歩いて1分、上海の交通の要所に立地していることから外国人にも人気があるという。上海万博では、中国当局にとって頭が痛い問題が起こっている。外国人や中国人の一部に違法な売春が行われているという。実際、ホテルのエレベーターの中で英語で商談をしている男女に遭遇した。
 上海の夕方にSTARBUCKSで飲んだジュース1杯とケーキ2個で合計が60元(約780円)だった。中国人の生活も楽ではなさそうだ。

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